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Virtual Experiences in Reality:
Canon EXPO 2015

*本稿はCGWORD.JPの連載「Virtual Experiences in Reality」に掲載されたものです。

キヤノン株式会社(以下、Canon)は、5年毎に「Canon EXPO」を開催している。2015年は、パリ、ニューヨーク、そして東京で開催された(2016年にシンガポールで開催予定。シンガポールでは2011年に続く開催となる)。Canonにとって、この展示は自社のこれまでの業績を示す場であるだけでなく、Canonが現在どのような課題に取り組んでいるのかを発信するとともに、それに対する消費者の関心を確認する場ともなっている。消費者(プロ、アマチュアまたはその中間にある人たち)はこの展示を、見て、触って、感じることで、Canonの次世代イメージ/映像を知ることができるのだ。R&DのフォーラムとPRイベントとが一体となった包括的なプロダクト・ショーケースであるCanon EXPO Tokyoは、自国での開催ともあって、質量ともに非常にレベルの高いショーとなった。以下では、本連載のテーマであるリアリティに関する視点から、特に興味深かった展示について紹介したい。

高品質プリント技術展示
「その場にいるような臨場感」

会場に入ると暗闇の中の大窓の向こうに飛行場が広がっている。どうやら大型プリントに照明を当てたデモ展示のようだ。窓に近づいて鑑賞すると、スケール感やプリントから反射する光の眩しさから、そこに飛行場があるかのような錯覚に陥った。屋外晴天のなかの飛行場の絶対輝度は、もちろんここでは再現されていない。しかし、推奨鑑賞距離から見た時のパースペクティブの一致や、高いコントラストのプリント技術、フラットな照明技術、そしてリアルな窓のインタフェースを通すことで、部分的なリアリティを感じることができる。窓というフレームを利用した「その場にいるかのような臨場感」(Sense of “Being there”)が体験できた。またもう一つ、ビル群を見下ろす構図の大型プリントを使ったの同様のデモがあった。こちらは鑑賞者が俯き姿勢を強いられるような展示となっており、強いパースペクティブを持った画像に吸い込まれるような体験ができる。

窓枠越しに設置された飛行場の大型プリント
俯き姿勢で鑑賞するビル群のプリント

超高精細画像
「まるでそこにいるかのような存在感」

さて、この展示イベントのもう一つのハイライトは、まだ世に出ていない開発中の驚くべき「イメージング」の技術を実際に見られることだ。特に1.2億画素の一眼レフのデモには、その成果がもっともよく現れていた。一見すると、カメラのボディは、CanonのEOS シリーズのカメラとほとんど見紛うばかりだが、その中身の高解像度センサーは流通しているCanonの他の製品とも、他のメーカーのいかなる製品ともかけ離れた性能を持つ。この1.2億画素カメラは標準的なCanonの24-70mmレンズを装着することで、今後市場での流通のしやすさを示唆している。このカメラシステムの性能をデモンストレーションするための印象的なセットアップが、白人の少女のポートレートであった。このデモでは、1.2億画素のポートレート画像を、モニタ上で任意の場所を拡大して見ることができる。カメラが捉えた顕微鏡レベルの明瞭さがはっきりとわかる。毛穴までもがわかる。まつげやそばかすは容易に認識可能だ。また壁にはこの画像の超高精細プリント(これもまたCanonのイノベーション技術の一つである)にスポットライトがあたり展示されており、プリントの上には「まるでそこにいるかのような存在感」のキャッチコピーが印字されていた。見る人はこのシンプル且つ強力な高精細技術による、写真のリアリティの向上をはっきりと感じとることができる。果たして写真家は、このような小型ボディに秘めた大判カメラのような高精細カメラを用いて、どのような撮影や照明をおこなうのであろうか。またレタッチャーのポストプロセスは今までとどのように変化するのだろうか。仮にこの1.2億画素のカメラシステムでの動画像が実現されたならば、このシステムが8Kインディペンデント・フィルムメーキングという新たな世界への大きな道筋となるにちがいない。クロップしてもなお非常に詳細で明瞭な画像により、不必要なズームイン・アウトは忘れられ、Canon EOS 5D MarkⅡが初期のドキュメンタリストに果たしたのと同じように、フィルムメーカーとストーリーテラーに新たな冒険の道を切り開くことができるだろう。今のところCanonがこの技術をいつ世に出すのかは分からないが、このような高いメガピクセルを有するイメージがどのように使用され、どのような人によって興味を持たれて見られるかが普及の重要な鍵となるだろう。

1.2億画素カメラで撮影された画像の一部

8K映像収録システム
「8Kライドによる移動感」

周知のごとく「イメージング」はCannonの基盤・根幹を成す事業であるが、今回の展示において特に際立っていたのが、8K映像技術だ。すでに4Kは一般的に流通し、多くの家庭で利用されている段階にあり、CanonもCINEMA EOS SYSTEM などを通して4Kのデモンストレーションに取り組んできた。本展示では技術デモンストレーションとして、8K センサーを搭載したCINEMA EOSカメラの試作機を登場させた。本展示では、ガレージを模した精巧なスタジオに、本物バイクがライティングされて設置されており、その現実のシーンを8Kカメラで切り取り、自社開発したHDR対応8Kディスプレイに表示された高いリアリティを持つ画像と、現実のシーンを観客は比較することができる。この8Kカメラは、表面上はEOS C300 MarkⅡと同じだが、8K-60FPSでの伝送及び収録(外付けレコーダー)が可能である。この8K収録及びリアルタイムデモ展示は、おそらく8K放送がロードマップにある日本国内の放送局とコンテンツプロデューサーに向けたものであるだろう。

また、この8K映像技術によって実際にその場にいるかのような没入感をもたらすライド映像コンテンツが展示されていた。映像を通して、まるで乗り物で移動しているかのように、ヨーロッパの街並みや景色をめぐるこの小さなツアーは、Canonの8Kカメラによる一人称視点の車窓映像を8Kプロジェクション(4つの4Kプロジェクターを使用して)することによって実現されている。実際に経験しているかのように乗り物が前に進み、ディスプレイを通してではなく、車窓から景色を眺めているかのような移動感を体験できる。

リアルなガレージを再現した8Kカメラのデモンストレーション展示
一人称視点の8Kプロジェクション映像によるライド映像コンテンツ

バーチャルリアリティへの取り組み

近年の大きな潮流にあわせて、Canonも自社のHMD(Head-mounted Display)を公表した。その他の多くの展示技術と同様に、いつ世に出るかは今のところはっきりとは分からない。Canonは、現在市場に流通しているようなスマートフォンとカードボードによるシステムよりも幾分大きい、ユーザーが両手で操作するハンドヘルドのデバイスを開発した。このように大きなデザインになったのは、盗難へのセキュリティ対策に加えて、鮮明な高画質や広い視野角を重要視したことが理由であろう。ハンドヘルドディスプレイは、5.5型パネル2枚、解像度は2,560×2,880(538ppi)、視野角は120度と、現在流通しているHMDの中でも最も高精細、広視野角に分類される。色彩豊かなシンガーやダンサーの踊る360度ビデオコンテンツが、ヘッドトラッキングを通したバーチャルリアリティ(VR)による没入感をもたらす。高精細、広視野角を重視してハンドルを再考案したCanonのVRへのアプローチは、イメージの重要性に焦点を当てたハイエンドなVRの市場を開拓し始めている。

高解像度ハンドヘルドディスプレイ

結び

今回のCanon EXPO 2015 Tokyoでのデジタル・イメージングの将来は、ディスプレイにあった。現実を忠実に捉えてそのエッセンスをディスプレイするような展示がメインに展開され、その場にいるような臨場感を感じれる演出も多い中、Canonが伝えるはっきりとしたメッセージには、存在感、移動感のキャッチコピーがあった。これらのメッセージは、プリントやモニタ、プロジェクターなどの2次元ディスプレイでの高いリアリティを持つコンテンツとそれを支える技術のためのものであったが、その高リアリティの延長線がバーチャルリアリティであるかのように、没入感を演出する高解像度ハンドヘルドディスプレイが公開されていた。

また一方で、BT.2020規格での最大解像度である8K解像度のカメラ及びディスプレイの試作機には大きな可能性が見られた。8K解像度の映像は、映像と認知に関わる心理実験やSuper Hi-Vision を実現するハードウェアの開発により、NHK放送技術研究所(以下、NHK技研)により牽引されてきた。このCanonの8K試作機は、 その中で唯一足りなかったUHDTV映像制作や2020年の東京オリンピックでの8K放送のフィージビリティを示していた。

今回のCanon EXPOで取り上げられた高解像度を中心とした技術が、今後どのように市場やメイントトリームにおいて展開を見せていくのか、また現在、ハイダイナミックレンジ(HDR)がトレンドになりつつあるUHDTV映像制作におけるパラメータ選択(高解像度、ハイフレームレート、ハイダイナミックレンジ)にどのように影響を及ぼすか非常に興味深い。

翻訳・編集:橋本まゆ