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SHOT ON KOMODO —
IPP2 Camera and Workflow Assessment

2020年10月31日公開: 本稿のPDF版は下記リンク参照。
MARTIAL ARTS TOKYO – SHOT ON KOMODO – Camera and Workflow Assessment.pdf

本稿で使用したIPP2関連素材は下記リンク参照 。
IPP2 Output Presets (https://www.red.com/download/ipp2-output-presets)
RED Creative LUT Kit (https://www.red.com/download/red-creative-lut-kit)

Introduction

2020年9月上旬、撮影監督である石坂拓郎氏(以下、石坂氏)が主体となり、株式会社RAIDによる機材協力のもと、RED – KOMODO 6K(以下、KOMODO) のカメラアセスメントを兼ねた映像『MARTIAL ARTS TOKYO:SHOT ON KOMODO』を制作することになった。REDで最小サイズのKOMODOには、高ダイナミックレンジ6K Super35mmのグローバルシャッターセンサー、高解像度タッチスクリーン及びWi-fiリモートコントロール、12G-4K60P出力などRED史上初の機能が搭載されている。これらを評価するため、カメラの形状を活かした手持ちや軽量ジンバル撮影、ダイナミックレンジの高いナイトシーン、グローバルシャッターでしか表現できないストロボライトや高速移動体(アクション、電車など)など、カメラの特性を活かしたを映像を制作することになった。

図1:ジンバルにマウントされたKOMODO

Camera Assessment

 2020年9月8日、株式会社RAID及び株式会社小輝日文の機材協力のもと、KOMODOのカメラテスト撮影をおこなった。カメラテストでは、人物を中心に、暗部から明部まで輝度範囲の広いシーンを構築した。シーン内には、3枚のX-Rite Color Checker(以下、カラーチェッカー)に加え、バックライトに照らされることで透過色が発生する生花を配置した。

図2:カメラテストシーンとその露光量

 カラーチェッカーの下段の無彩色列を取り出すと、その反射率[1]表1のようになる。まず、人物の左前方に配置したカラーチェッカー(Chart2)の20%グレー(Neutral5)が適正露出となるように照明した。次に、手前に置かれた小型のカラーチェッカー(Chart1)への照明を遮り、このカラーチェッカーが適正露出から-6ストップとなるように調整した。最後に、人物左奥のカラーチェッカー(Chart3)が、適正露出から+6ストップとなるように、スポット照明を調整した。

表1:カラーチェッカーの反射率と露光量

 このようなシーンの輝度範囲は、Chart2のニュートラル5を0ストップとしたとき、表2のようになる。この表を参照すると、このシーンは、明部(+8.1)から暗部(-8.3)まで約16ストップの輝度範囲であることがわかる。このシーンで、KOMODO 6K とRANGER GEMINI 5K S35(以下、GEMINI)で、ISO感度を変化させたテスト撮影をおこなった。(撮影データについては表3を参照)

表2:シーンの輝度範囲
表3:撮影データ表(KOMODO 6K とGEMINI 5K)

[1] 分光測色器(PHOTO RESEARCH PR-650)、標準白色版(スペクトラロンSRS-99 )、ライトボックス(Just Color Viewing Light S ADVANCED D5000)を用いて、5000K環境下のカラーチェッカーを測定したデータをもとに、反射率を算出。(2016年9月5日)

Whitebalance

 まずはじめにカメラのホワイトバランスを確認した。照明の色温度とカメラの色温度が同じ時、ニュートラルグレーが再現されていると照明コントロールが容易になるためだ。そこで照明機材[2]とカメラの色温度を共に5600Kに設定して撮影をおこなった後、R3DデータをACES色空間上で比較した。KOMODOによる実験では、20%の反射率を持つニュートラルグレーのパッチのRGB値が、全て0.2になる理想的な結果となった。本照明機材とKOMODOの組み合わせであれば、色温度のコントロールが自在におこなえることがわかった

図3:ACES上でのRGB値

[2] Digital Sputnik LIGHTNING DS3

Dynamic Range

 カメラのダイナミックレンジを調べるために、6段分のスポット照明を加えた明部に着目して、ISO800、ISO1600、ISO3200の画像を比較した。ISO800では明部の彩度が下がる傾向があったが、ISO1600, ISO3200になるにつれ、彩度が保持された(図4)。また、暗部に着目した比較図が図5だ。当然、高感度になるにつれて、ノイズが目立つようになる。本作品には、高彩度のネオンライトや夜景シーンが多々出現する。そのため、ポストプロセスによるデノイズを考慮しつつ、ISO1000~ISO1600付近をISO感度の基準とした。

図4:明部(Chart3)のISO感度比較(-4 Stopで表示)
図5:暗部(Chart1)のISO感度比較(+ 5 Stop表示)

 KOMODOとGEMINI のISO1600における比較では、KOMODOはGEMINIのダイナミックレンジ及びノイズに匹敵する性能を有する。解像度に関しては6K解像度を有するKOMODOに大きなアドバンテージがあった。この解像度を活かすため、本作品では、6K 17:9をメインに収録をおこなうことにした。(図6

図6:解像度比較(KOMODOとGEMINI)

Color Pipeline

 ここでは、本作『MARTIAL ARTS TOKYO:SHOT ON KOMODO』における、撮影からディスプレイまでのカラーパイプラインについて解説する。本作では、2017年よりREDに実装されたIPP2 (Image Processing Pipeline) を用いることにした。
 IPP2では、RED Support WebsiteよりダウンロードできるIPP2 Output Presets[3]を使うことにより、ディスプレイデバイスの特性に合わせた技術的な変換(ガンマ補正や色空間変換)に加えて、トーンマッピングの調整も同時におこなうことができる。このようなアウトプット変換を経由することにより、将来的に高輝度なHDRディスプレイへの表示の際も、撮影データの階調を保持したまま表示することが可能になる。
 また、2020年には、RED Creative LUT Kit[4]がRED Support Websiteより頒布された。これらのLUTをアウトプット変換の前段で適用することで、撮影素材の色空間を変更することなく、ルックを付加することができる。
 本カラーパイプラインは、創り手の意図を反映させたルック変換と、ディスプレイの技術仕様によって決まるアウトプット変換の2段階から成る。さらにアウトプット変換の中には、ディスプレイデバイスごとの色空間変換と、シーン輝度とディスプレイ輝度の不一致を埋めるトーンマッピングが含まれている。このようにルック変換とアウトプット変換の2段階のカラーパイプラインを採用することで、技術革新とともに進化するディスプレイ技術に依存しない、普遍的な現実シーンを基軸とする汎用性の高いルックを作成することが可能になる。

図7:RED IPP2を軸としたカラーパイプライン

 これら2段階のLUTの組み合わせ総数は約400通りとなる。そのため本作では、効率よくカラーパイプラインを決定するために、4種のLUTを4分割比較表示するシステムを作成した。また最初に、作品の中のシーンごとのアウトプット変換を決めることで、より感覚的な要因に依存するルック変換の選択を容易にした。

図8: カラーパイプラインの組み合わせ

[3] IPP2 Output Presets (https://www.red.com/download/ipp2-output-presets)
[4] RED Creative LUT Kit (https://www.red.com/download/red-creative-lut-kit)

Look and Tone-mapping

 まばゆいばかりの現実世界の輝度を、暗所に設置された薄暗いSDRディスプレイへ表示すると、記憶色に比べ、コントラストが浅く、彩度の低い色が再現される。そこで、トーンマッピングを用いてコントラストを上げることで、高彩度なカラーアピアランスがバーチャルに再現される。REDのIPP2 Output Presets では、数々のトーンマッピングの中からシーンに応じたものを選択することができる。本作の主要なシーンは、高輝度且つ高彩度なネオンや照明機材が映る、夜の東京を舞台としている。このナイトシーンは全て、中間のコントラスト及びソフトなハイライトのロールオフのトーンマッピングを選択することになった。(MEDIUM_CONTRAST, VerySoft)

図9: IPP2によるアウトプット変換
図10: ナイトシーンにおけるアウトプット変換

 次にルックの選択について解説する。4分割された画面に異なるルックが適用された画像を表示して、撮影監督石坂氏の主導のもと、好ましいルックを絞り込んでいった。地下トレーニングルームのシーンでは、次にルックの選択について解説する。4分割された画面に異なるルックが適用された画像を表示して、撮影監督石坂氏の主導のもと、好ましいルックを絞り込んでいった。地下トレーニングルームのシーンでは、ニュートラルなハイライトでありつつも、赤い照明の彩度も保持する、RED_GRIME.cubeがルックとして選択された。RED_GRIME.cubeがルックとして選択された。

図11: 4種のLUTを比較表示

Custom Look and ACES Workflow

 4分割表示でLUTを絞り込む際、あるルックとルックの中間のルックが欲しいケースが生じた。その場合は、LUT同士の加算平均により、カスタムルックを作成することにした。夜のビル群のシーンでは、肌及びホワイトの質感が好ましかったRED_GRIME.cubeとピンクネオンの高彩度が際立ったRED_TECH.cubeを加算平均したLUTを用いた。

図12: LUT同士の加算平均

 最後に本作の唯一のデイシーンに採用されたACESワークフローについて解説する。ナイトシーンに比べて日中のシーンでは、高コントラストのトーンマッピングに好ましさが感じられた。そこで、RED Output Presets に加え、ACESのRRT (Reference Rendering Transform)を比較表示した。高いコントラストに加え、高彩度な明部の好ましさから、このシーンでは、RRTによるアウトプット変換が用いられた。

図13: デイシーンのアウトプット変換
図14: RRTによるアウトプット変換